いつも日穏-bion-を応援して下さっている皆様へ
今月中旬から来月にかけて、東京、宇都宮、富山で上演を予定していた第15回公演「月虹の宿」ですが、現在のコロナウィルス感染者の急拡大を受けて、やむを得ず延期する事にしました。
とても辛い決断ですが、今回のデルタ株の感染力は今までのものとは比べ物にならないほど強く、一週間後には東京都内だけで新規感染者数が1日1万人を超えるとも言われています。更に南米で流行っているラムダ株も新たに日本で確認されたとの事。
ワクチンが行きわたらず、経口薬もまだ認可されていない状況で、劇場という密空間にお客様をお呼びしていいものかどうか・・・かなり悩みました。
ニュースではデルタ株の感染急増、医療現場のひっ迫を訴え、今は有事だから国民みんなが危機感を持つべきだと伝える一方、そのすぐ後にはオリンピックの報道でお祭り騒ぎ…。
スポーツ競技の国際試合に長年MCとして携わり、昨年のオリンピックパラリンピックでも仕事の予定が入っていた私としては、スポーツ選手の頑張りを応援したい気持ちは人一倍ありました。現に選手たちの奮闘には敬意を表します。彼らには全く罪はない。
でも、さすがにどう考えても矛盾している報道に心がついていけず、一体何を信じて良いのか分からなくなりました。
そうこうしている間にもありがたい事にたくさんのご予約をいただきましたが、感染拡大が報じられてからは、心から「ありがとうございます、お待ちしています!」と言えない自分がいました。
13年前に日穏-bion-を立ち上げてこれまで続けてこられたのは、常に「作品を通してお客様に笑顔と感動を届けたい」という思いがあったからです。今回果たしてそれが実行できるのか、自問自答を繰り返した結果、少しでも不安があり、お客様に申し訳ないという気持ちがあるのであれば強行すべきではないと考えました。
新型コロナに関する考え方は人それぞれです。ただの風邪だという人もいれば、自分はかからないから大丈夫という方もいると思うので、今回の決断がオーバーリアクションだと考える方もいらっしゃるかもしれません。
でも、罹患して軽症とされている方が、一週間以上も高熱が続き、激しい倦怠感や咳などの症状で相当苦しんでいるにもかかわらず何の手当も受けられない姿を目の当たりにすると、決してこのウィルスを侮ってはいけないと感じます。そしてこのウイルスの怖いところは、知らず知らずのうちに誰かに移しているかもしれないという事であり、それはワクチン接種が済んでいる方も同様です。
従来型のコロナウィルスであれば、検温、消毒、マスク着用という感染対策を徹底して行っていれば劇場で感染することはほぼないと言われていましたが、感染力が従来株の2倍で、感染者が持つウィルス量にいたっては約1000倍と言われるデルタ株に関してはそうも言っていられないと感じています。これまでは1人が感染させる人数は平均2.5人だったのに対し、デルタ株は8~9人・・・どんなに役者やスタッフが気をつけていても、お客様同士の空気感染まではコントロールしようがありません。
これからどのように感染が広がっていくのか・・・今まではほとんど見受けられなかった百貨店など、人一倍感染対策に気をつけているであろう場所でも集団クラスターが起きているのです。
今後劇場がお客様を巻き込んだクラスターにならないという保証は全くなく、自分たちがその前例を作りたくないというのが正直な気持ちです。
自宅療養者にまできちんと行き届く治療薬がない今、「緊急事態宣言」という言葉にある意味慣れてしまっていることを反省し、文字通り「緊急事態」である事を我々一人一人が再認識する必要があるのではないかと思わずにはいられません。
宇都宮および富山公演に関しては9月という事もあり、全国的に感染状況がどうなっているのか分かりませんが、そのころまでに今のコロナ禍が完全に終息しているとは考えにくく、東京公演と同様の理由でこちらも延期する事にしました。
楽しみにして下さっていた皆様、今回はご覧いただく事ができず本当に残念ですが、「月虹の宿」は近い将来、このような心配をしないで済むようになったら、必ず上演するつもりでいます。その時まで、どうか楽しみにお待ちいただけましたら幸いです。
今後とも日穏をよろしくお願いします。
最後になりますが、一日も早い新型コロナウイルス感染症の終息と、皆様のご健康とご多幸を心からお祈り申し上げます。
日穏-bion-主宰 岩瀬晶子